ピアニスト野口幸太Officialwebsite

menu
close

体験レッスン受付中です。その他レッスンに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。

Blog ブログ

2023.4.3ピアノ教室

相場価格の5倍で売却するはずだったピアノを売らなかった理由


このピアノは僕が高校1年生の時に、父親から買ってもらいました。
何かと軋轢のあった父子ですが(笑)、そんな父と僕の心の距離が離れそうになる時、良くも悪くもこのピアノを買ってもらった時のことを思い出し、ギリギリの感謝で僕たちを繋ぎとめてくれていました。
(父は健在で、仲は良好です。笑)

そんなピアノですが、メインのレッスン室を家の外に新設し、新しいピアノを購入した際、こちらの楽器は手放そうとしていました。
二台持ちの必要はないと思ったのが1つ。
もう1つの理由は、住居の隣に新しい建物が建つことになり、この家は建物に囲まれ、ハメ殺し状態になることが確定したからです。
つまり、グランドピアノのような大きな荷物の搬出経路が絶たれることが確定したのです。

そんな中、某ピアノ買取会社に見積もりを依頼したところ、いいとこ4万円という査定額。
この金額はそんなに相場と外れたものではないと思います。
なんてったって、音大受験期から20年以上かけて弾き潰してきた楽器、4万円でもいただけるなら御の字と思っていました。

ところが、この楽器を20万円で引き取ってくれる。という人が出現。
相場の5倍!
なんとありがたいこと!
と、あとは契約書にサインと印鑑を押すだけ・・・という段になって、当時同居していた妹から一言。

「ねえ、売るのやめたら?」
続いて母からも、
「持っておきなさいよ」
そして、二人の口から同時に、
「私たち、20万円は払わないけど。笑」

20万円のことはさておき、途端に色々な感情が込み上げてきました。

初めてグランドピアノが我が家に運ばれてきた時の夢のような思い出、
お金がなくて全然調律してあげられなかった20代の頃、
ピアノから離れた期間、見るだけでも苦しいのに、常に自分の部屋にデカデカと居座り続けてくれた、この黒くて大きな物体。(笑)

物には魂が宿る。と言います。
本当かどうかは知りません。
でも、実際のところ、それが嘘か本当かなんてどうでもいいんです。

我が家の女性陣二人から一言半ずつかけられた言葉により、僕の本当の気持ちが一気に溢れ出てきて、今、これから自分がしようとしていること(売却)が、とてつもなく恐ろしいことのように感じてしまいました。

思い出は心の中にあるもので、物に残る物ではない・・・
そんなことはわかってるんだけど、多分、僕はこの楽器と共に果たすべきことをまだやり終えていない。
と思ったんだと思います。
それが何なんだか、まだよくわかっていません。
ただ、そう思ったんです。

色んなところにガタが来ている楽器ではありますが、先日、素晴らしい技術者さんのおかげで、見違えるような味を出す楽器になりました。
(ヤマハ横浜:瀧本亮さん)
27年目のお付き合いにして、また次のターンが始まったような気がしています。
建物ハメ殺し問題は依然残したままですが。
ま、何とかなるでしょう。(笑)

全てのご縁に感謝して。